父帰る
2006/04/06・07 Thu・Fri



会場のシアタートラムはものすごく狭い・小さなところでした。
でもすごく趣があって、そこに入っただけでぞくぞくするような不思議な力を持っています。
席は前から2番目。真ん中よりは左より。ステージは割りと低いので、とても近くて見やすい。
幕は下がっておらず、会場に入るとステージのセットがそのまま見えます。
小さな畳の茶の間。ちゃぶ台が真ん中にあって、端には鍋や鉄瓶が吊るしてある。
後ろにはふすま。最初は閉まったまま。ふすまの前には戸棚もある。
その茶の間の外側には、家の外の屋根や家の前の通路のようなものがある。
ステージ自体小さいので、すごくこじんまりした感じ。でもよくある昔の風景。

時間になって照明が落ちると暗闇の中、人影が動いてセットにつく。剛です。
明かりがつくと、ちゃぶ台の前にあぐらをかいて座って新聞を読んでいる剛、もとい、賢一郎。
髪は七三分け。紺の着物を着ています。足は裸足。
奥の方で母が食事の支度をしている。賢一郎は新聞に目を通しながらぺらぺらめくっている。
そこへ母が銚子とお猪口を載せたお盆を持って茶の間へやってくる。
「ん」と一言母が言うと、新聞を読むのを止めてちゃぶ台の方へ向き直る賢一郎。
「おたあさん。種はどこへ行ったの?」これが賢一郎の最初のセリフ。四国訛り。
声が違う。剛の声じゃないみたいな、低くて落ち着きのある声。
種というのは妹で、どうやら着物を売りに仕立て屋さんへ行っているらしい。
結婚のときに少しでもいい着物を持って行きたいから、頑張って仕事をしているようだ。
「この間の人はどうなった?」賢一郎が母に尋ねる。
どうやら結婚相手になりそうな人がいたらしいが、種は気にいらなかったらしい。
財産はあるが、人柄があまり好まなかったようだ。相手は種をとても気に入っていたが。
種は綺麗だから、色んな人が種を嫁に欲しいと言うが、なんせ母は父に逃げられているので
種には人柄のいい人と結婚して幸せになって欲しいと願っている。
財産がなんぼあっても、使えばすぐになくなってしまう。
しかし人柄がいいと、後々お金がなくても幸せになれる。
「でも、財産もあって人柄がよかったらもっとええでしょ」賢一郎が言う。
母は笑って「そんなうまいことはない。うちには財産がないんだから」
種には幸せになって欲しい。それは賢一郎も同じ気持ちだ。
「わしらの貯金が1000円になったら、半分はあいつにやってもええ」
そんな賢一郎に対し、母は笑って「そんなにやらんでも、300円で十分や」と言う。
和やかにそんな話をしながら、母は夕食の支度をしたり、縫い物をしたりしている。

そこへ弟の新二郎が帰ってくる。
袴を脱ぎながら、父の親友が父によく似た人を見たという話を聞いたと話す。
父は頬にほくろがある、それがあったら父に間違いないので声をかけようと思ったが
逃げるように隠れてしまって判別できなかったという。
母と顔を見合わせる賢一郎。戸惑っているのがよくわかる。
新二郎が賢一郎にお酌しながら、話を続ける。
あぐらを書いたまま、酒をついでもらう賢一郎。
「しかし、今お父さんが帰ってきても、家の敷居が高すぎるでしょ」と賢一郎。
父は昔、すごく男前と評判だったと聞いたと新二郎。
母が照れながら昔の父の話をするのを、新二郎は興味深そうに聞いている。
しかし賢一郎が「おたあさん。おまんまを食べましょう」と話をそらし、食事が始まる。

そこへ種が帰ってくる。
家の前に年をとった男の人が立って家の方を見ていたと話す。
「どんな人だった?」と尋ねると、「顔は見えんかったけど、背ぇの高い人やった」と種。
今まで父の話題をしていただけに、緊張が走る。
新二郎が飛び出して外を見に行く。
「誰か、いるかね?」賢一郎が尋ねると「おらん。誰もおらん。」と新二郎。
新二郎が戻ってきて、また父の話になる。
しかし賢一郎が「昔の話はやめましょう」と言って、食事が再開される。

そこへ「ごめん」と門の前で男の人の声が。
「はい!」と種が返事をすると「おたかはいるか?」と男は尋ねる。
「へぇ!」と母が襖を開けて玄関を見ると、そこには年老いた男が立っていた。
母は驚きの声を上げながら「まぁまぁ、おまいさんかい?」と男にすがりつく。
「元気そうじゃのぅ」と言う父に「まぁまぁ、上がりんさい」と母。
父が茶の間に上がってくる。賢一郎は動かない。
新二郎が膝を突いて頭を下げ、「お父さん、新二郎です」と言う。
「お前は立てもしなかったのに!」と驚きながらも嬉しそうな父。
「お父さん、私が種です!」と同じように頭を下げる種。
「お前が!女の子だとは聞いていたが、ええ器量をしている」と嬉しそうな父。
母、弟、妹、そして父。嬉しそうに話をする中、賢一郎だけが動かず、何も言わない。
「親がいなくても子は育つと言うが、本当じゃなぁ」と笑う父。
座布団を母に勧められそこに座り、あぐらをかく。
家を出てすぐのころは上手くいってたが、事業に失敗してからどうもダメだと父。
母は嬉しそうに息子・娘の自慢話を父にする。
息子2人は優秀で今では月に90円も持ってきてくれる。
種は器量がいいから、ええとこから声がかかっている。
「お前が賢一郎か。お前だけは顔に見覚えがある」と父。
「よし、賢一郎。酒を注いでくれ。わしも最近じゃあまりいい酒が飲めんでのぉ!」と父。
父は笑うが賢一郎は動かない。すると父が「じゃぁ、新二郎。お前でいい。注いでくれ」
新二郎が返事をしてお猪口を父に差しだし、そこに酒を注ごうをした瞬間賢一郎が動いた。

「やめておけ。注ぐ必要はない。」

「なんだと?」と怒りを表す父。
「わしらにてて親はおらん。
 わしらにてて親がおったら、8つのときから給仕をせんでもすんどる。
 わしらはてて親がいないばっかりに、今まで苦労したんや。
 わしらのてて親は家にいるときは酒ばかり飲み歩き、好きなことをして。
 しまいに借金を作って、家族を捨てて娼婦を連れて出て行った。
 それだけじゃない。出て行ったあとは、おたあさんが貯めた貯金もなくなっておった。
 おたあさんと、わしら3人の子どもの愛を合わせても、その女には勝てんかった。
 わしらにてて親はおらん!」
今まで黙っていた賢一郎が一気に熱くなって喋りだす。
ムキになって早口で怒鳴る賢一郎。ツバを飛ばしながら、汗が顔からぽたぽた落ちている。

「賢一郎!お前は実の父親に向かってよくもそんな口を!」怒って立ち上がる父。
賢一郎は鼻で笑って正座を崩してあぐらをかきながら「実の父だと言うのですか?
「あなたの言う賢一郎は8つのときに炭鉱で死にました。」
 今のわしは、8つのときにおたあさんが炭鉱に身投げした時、間違って
 浅いところに飛び込んだから生きている。そこからわしは自分自身の力でき生きてきた。」
新二郎が「しかし兄さん。お父さんも今ではお年を召して体も弱っているし…」と言い掛けると
「新二郎!お前はよくこんな男を「お父さん」などと呼べるな。
 お前は教科書が買えず、写本を持って行ったことを忘れたのか?
 金に困って、家族4人で昼飯を抜いたことを忘れたのか?
 新二郎の学校のお金を稼いだのはわしじゃ。お前のてて親はわしじゃ!」
怒鳴る賢一郎。「しかし、おたあさんもああ言って喜んでおるし…」と新二郎。
「おたあさんは…おなごじゃけに、どう思ってるかは知らん。
 でもわしは許さん。もしお前がその人の世話をしたいなら、勝手にすればええ。
 でも兄さんはその代わり、お前とは口を利かないからな!」
賢一郎は新二郎の言葉に耳を貸さない。体はすっかりちゃぶ台とは反対を向いている。

「わかった。もうええ。出て行く」父が言って歩き出す。
「おまちもうせ!」と止める新二郎。
「行く当てはあるのですか?金はあるのですか?」尋ねるが父は歩き出し、玄関へ。
父はその廊下で足元がふらつき、倒れてしまう。
「確かに、なんの金も持たないで帰ってきては、図々しい話だ」と父。
「のたれ死ぬにはこの家は合わない」と、止める3人を払ってふらふらと出て行く。
3人は呆然とそんな父を見送る。

母が泣きながら「賢一郎!」と膝をつく。
種が泣きながら「兄さん!」と膝をつく。
賢一郎はしばらく黙っていたが、ぐっとこらえたように声を震わせながら
「新二郎!行って…父さん連れ戻して来い!」と涙声で言う。
新二郎は走って外に出て行き、辺りを見回して戻ってくる。
「南の道を見たが、見当たらん!北の道を探すから、兄さんも来て下さい!」
それを聞いて賢一郎が「何、見えん?見えんことがあるか!」と立ち上がり走り出す。
2人が走って出て行った後、母と種の泣き声だけが響き、照明が落ちる。
照明が落ちると同時に、襖に「父帰る」の文字が浮かび上がる。




父の態度が気に入らなかった。
突然帰ってきて、当たり前のように座って、図々しいにもほどがある。
謝罪の言葉もない、謝罪の態度もない。賢一郎が怒るのも当たり前だ。
でも最後に賢一郎は父を許す。それがどうしても納得できなかった。
けれど、パンフレットを読んで納得。
父の帰りを1番待っていたのは、確かに賢一郎なのかもしれない。
許せないけど、父だと認めたくないけど、苦労したからこそ父を求めていたのかな。
今までの恨みをすべて話して、これから新しい家族を作っていくのかな。

剛は賢一郎にしか見えませんでした。
声の出し方も、目つきも、佇まいも、すべてが今まで苦労を背負ってきた賢一郎に見えた。
今までの苦労を話すところでは、力が入って自分の胸倉を掴むんですけど。
手の血管が浮き出てるのがはっきりわかって、熱いものがあった。
6日と7日はそれほど違いはありませんでしたが、7日の方が汗がすごかった。
そして鼻水も。6日は気にならなかったけど、7日は鼻の両穴から全開に出てた。
2,3度、鼻をこすって鼻水を拭いていました。
涙と一緒に鼻水があんなに流れる程、力が入ったんですかね。
最後のタイトルが襖に浮かび上がる演出は本当に綺麗。
真っ暗な舞台にすすり泣きの声と炎のような文字。美しかったです。
泣いている人も多くいましたが、私は父に腹が立ってしまったので泣けませんでした。
でも終わってから色々考えると、少しホロリとした気持ちにはなったかな。

ちなみに。セリフはおおまかです。方言や表現など、違うところも多いと思います。
でも雰囲気が伝わればいいかな?と思って、詳しく書きました。
セリフの順序なども違うところもあるかと思いますが、その辺はご了承ください。